AIが水を奪う?知らない危機5選
AIは「電気」だけで動いているわけではない
ChatGPTや画像生成AIを、毎日のように使っている人が増えています。
AIはご飯も食べないし、水も飲まない。
多くの人が、なんとなくそう考えています。
ところが、最新の研究によると、生成AIをたった2週間訓練するだけで、約70万リットルの淡水が使われました。
70万リットルは、人間5,000人分の1日分の生活用水に相当します。
さらに、私たちが日々AIに質問するだけでも水は消費されます。
20〜30問ほどAIに質問すると、500mlペットボトル1本分の水が、データセンターの冷却などに使われているという試算があります。
AIは目に見える形では水を飲みません。
それでも、AIを支えるデータセンターや半導体工場は、静かに大量の水を必要としています。
このまま何も知らないままAIを使い続けると、水不足を加速させる一員になってしまうかもしれません。
結論:AI時代は「水の使い方」を考えないと危ない
結論から言うと、AIそのものが悪いわけではありません。
問題は、AI・半導体・発電が一体となって水を大量に消費し、世界の水不足と重なっている点です。
世界ではすでに、水をめぐって地域住民と企業が争うケースが出ています。
日本でも、データセンターや半導体工場の誘致が進み、地下水や水源への影響が見過ごされがちな状況があります。
AIを便利に使い続けたいなら、「AIの裏で水がどう使われているのか」を知り、企業や自治体に透明性と対策を求める必要があります。
一人ひとりが正しい知識を持つことが、AIと水資源を両立させる前提条件になります。
この記事を読むメリット
このブログ記事を読むと、次のポイントがわかります。
- 生成AIやデータセンターが、なぜこれほど多くの水を必要とするのか
- 世界の水使用量が急増している背景と、その中でAIが占める位置
- 日本が「水が豊富な国」とは言い切れない理由
- データセンター・半導体工場・土地売買が、水問題とどうつながるのか
- 個人・企業・自治体が、これからどのような対策を取るべきかのヒント
AIや環境問題に詳しくない人でも読めるように、専門用語はできるだけ避けて説明します。
「AIを使うのが怖くなる」ためではなく、「知った上で賢く選ぶ」ための材料として読んでみてください。
AIが水を奪う?知らない危機5選
危機1:生成AIの学習と利用に、想像以上の水が必要
まず、生成AIの「学習」には膨大な計算が必要です。
その計算を行うデータセンターは、大量の電力を使い、その熱を冷やすために大量の水を使います。
カリフォルニア大学の研究では、生成AIを2週間訓練しただけで、約70万リットルの淡水が使われたとされています。
これは、人間5,000人分の1日分の生活用水に相当します。
さらに、学習後の「利用」段階でも水は消費されます。
ある試算では、AIに20〜30問質問すると、500mlペットボトル1本分の水が、冷却などに使われるとされています。
1日に何十問もAIに質問するユーザーが世界中にいると考えると、その積み重ねは無視できません。
危機2:半導体工場とデータセンターが水を集中的に消費
AIを動かすには、高性能な半導体が欠かせません。
半導体工場では、「超純水」と呼ばれる、普通の水よりもはるかにきれいな水が大量に使われます。
半導体の基板についたわずかなホコリを落とすために、洗浄工程を何度も繰り返すからです。
日本でも、熊本に大手半導体メーカーの工場が作られたことが話題になりました。
このような工場は、雇用や経済にはプラスになります。
同時に、水資源の管理を誤ると、地域の水不足を招くリスクも抱えます。
さらに、データセンターも水を使います。
サーバーラックが高密度に並ぶほど熱がこもり、冷却のために水が必要になります。
冷却塔からは水蒸気が上がり、朝や夕方にデータセンター周辺に霧がかかることもあります。
日本では、千葉周辺が「データセンター銀座」と呼ばれるほど施設が増えています。
2030年には、日本のデータセンターのラック数が約99万ラックに達すると予測されています。
特に、電力と水の消費が大きい「ハイパースケール型」のデータセンターが増える見込みです。
危機3:気候変動で「水の偏り」が厳しくなっている
世界全体の水使用量は、1930年から2000年にかけて約4倍になりました。
OECDの予測では、2050年には2000年比でさらに55%増えるとされています。
水の使い道は、これまで農業が中心でした。
今後は、工業用の水や発電に使う水が大きく伸びると見られています。
半導体・データセンター・水力発電・火力発電・原子力発電などが、その代表例です。
一方で、気候変動によって「水がある地域」と「水がない地域」の差は広がっています。
雨がなかなか降らない期間が続いた後、短時間にドカンと豪雨になるケースが増えています。
このような雨は、地下水として蓄えられにくく、そのまま海に流れてしまいがちです。
つまり、水の使う量は増え、水の「貯金」は難しくなり、水の偏りも激しくなっています。
この状況で、AIや半導体が水を大量に使うと、水不足の地域では深刻な影響が出ます。
危機4:日本は「水が豊富な国」という思い込み
日本は雨が多く、川も多い国です。
「日本は水が豊富」「水と安全はタダ」というイメージを持つ人は多いと思います。
しかし、雨の量を人口で割ると、1人当たりの水量は世界平均の約半分と言われています。
しかも、日本の川は短くて急で、山から海までの距離が短いという地形的な特徴があります。
雨が降っても、水を長くためておくのが難しい地形です。
これまで日本が水を上手く使えてきた背景には、先人が整備したダムや水道、田んぼなどのインフラがあります。
田んぼは雨水を一時的にため、地下水を補う役割も果たしてきました。
ところが、今そのインフラが老朽化しています。
水道管の破裂や更新の遅れが、あちこちでニュースになっています。
AIやデータセンターのために水を使う前に、「水を運ぶ仕組み」を守れるのかという問題が見えてきます。
危機5:土地と水源が「静かに」資産として買われている
水問題は、AIや工場だけの話ではありません。
土地と水源の問題も、見逃せません。
日本の民法では、「土地の所有権はその上下に及ぶ」とされています。
つまり、土地を買うと、その下の地下水をくみ上げる権利も、基本的には手に入ることになります。
2000年代初めには、北海道の水源地周辺の土地が買われていることが話題になりました。
「日本の水が外国資本に奪われるのでは」といった不安が広がりました。
その後、東日本大震災をきっかけに再生可能エネルギーが推進され、山林にメガソーラーが作られるようになりました。
外国資本が関わるケースもありましたが、当時は「エコ」や「再エネ」として前向きに捉えられることが多く、土地売買への警戒感は弱まりました。
最近では、水源地だけでなく、農地や港湾など、平地にも土地の売買が広がっています。
後継者不足で農業を続けられない農家が土地を手放し、それを投資対象として購入する動きもあります。
土地を買った企業は、その場所で農業を行ったり、工場や施設を建てたりします。
水を直接「商品」として運ぶよりも、その水を使って半導体や農産物などを生産し、輸出した方が利益が出やすいからです。
結果として、水そのものではなく「水を含んだ土地と生産」が取引されている構図になります。
AIと水をめぐる世界と日本のリアル
事例1:生成AIの学習で70万リットルの水が消える
先ほど触れたように、生成AIを2週間訓練すると約70万リットルの水が使われたという研究があります。
これは単なる「理論値」ではなく、実際のデータセンターの冷却や電力に基づいた試算です。
Microsoftは環境レポートで、水の消費量が3年間で87%増えたと公表しました。
Googleも、年間で2,400万立方メートル以上の水を使っているとされています。
問題は、そのうちの一定割合が、もともと水が少ない地域にあるデータセンターで消費されている点です。
事例2:オレゴン州でGoogleの水使用量が29%に
アメリカ・オレゴン州では、Googleの水使用量をめぐって自治体とメディアが争った事例があります。
自治体がGoogleに大量の水を供給していたにもかかわらず、その具体的な量を「企業との秘密契約」として公表しませんでした。
地元メディアは「どれだけ使っているのか」を知るために訴訟を起こしました。
開示された結果、その市全体の水の29%がGoogleに供給されていたことが分かりました。
企業は契約に基づいて料金を支払い、水インフラ維持にも貢献していると主張しました。
一方で、住民からすると「気づかないうちに自分たちの水が大量に使われていた」という不信感が残りました。
事例3:チリの銅山と海水淡水化のコスト
南米チリでは、銅を採掘・精錬するために大量の水が必要です。
一部の鉱山では、遠く離れた海から海水をくみ上げ、真水に変える「海水淡水化」を行っています。
さらに、その水を長いパイプラインで山の鉱山まで運びます。
これは非常に高コストな方法です。
それでも、銅の価格が高いため、ビジネスとして成立してしまいます。
高い価値のある資源を支えるためなら、どれだけ水にお金をかけてもよい、という判断が現実に行われています。
事例4:日本のデータセンター銀座と地下水への影響
日本でも、千葉周辺には多くのデータセンターが集まっています。
東京都昭島市では、市内唯一の地下水を水道水の水源として使っているにもかかわらず、データセンター建設の計画が持ち上がりました。
議会では、雇用への影響や環境への負荷は議論されました。
しかし、水資源への影響については、十分な議論が行われていないと指摘されています。
どれくらいの地下水を使うのか、公的な場で明らかになっていないケースもあります。
地下水は、時間をかけてゆっくりと補給されます。
一度に大量にくみ上げると、地盤沈下や井戸の枯渇につながるリスクがあります。
AIやクラウドサービスの裏側で、こうしたリスクが進行している可能性があります。
事例5:世界の水戦争ホットスポット
水をめぐる対立は、すでに各地で起きています。
代表例が、メコン川流域です。
上流の中国がダムを建設すると、メコン川下流の国々は水量をコントロールされます。
農業や漁業に大きな影響が出る可能性があり、常に緊張の火種になっています。
インドでは、2050年には約4割の人が十分な水にアクセスできなくなるという予測もあります。
毎年約2,000万人が、水や食料の不足で住む場所を追われているとも言われています。
一方で、AIやデータセンターが集中する地域では、AIのために水がガブガブ使われている現実があります。
1日に20リットルの水すら確保できない人がいる一方で、AIが大量の水を消費する。
このギャップこそが、これからの大きな倫理的課題になります。
まとめ:AIを止めるのではなく、水のコストを「見える化」する
最後に、この記事の主張をまとめます。
AIや半導体をやめるべきだ、という話ではありません。
AIは、医療・教育・災害対策など、多くの場面で人を助ける可能性を持っています。
問題は、「その裏で何が起きているか」を知らないまま、ひたすら拡大させていることです。
電力だけでなく、水という目に見えにくいコストがかかっていることを前提に、社会全体でルールを整える必要があります。
企業・自治体に求められること
- データセンターや工場の水使用量を開示する
- 水不足地域での新設・増設に対して、厳格な評価を行う
- 再利用・循環型の水処理技術(ウォーターテック)を積極的に導入する
- データセンター誘致の条件に、「水資源のマネジメント計画」を含める
ヨーロッパでは、工場内で一度使った水を再利用しないと、今後ビジネスが続けにくいという考え方が広がっています。
水を「使い捨てる」時代は、終わりに向かっています。
私たち一人ひとりができること
個人レベルでも、できることはあります。
- AIを使うとき、「水のコストがゼロではない」と意識する
- 不必要な大量生成や、無駄なリクエストを減らす
- 水問題やデータセンターの立地が議題になったとき、情報を集めて声を上げる
- 節水や水インフラへの投資を重視する政治・施策をチェックする
「AIを使う=悪」ではありません。
「何も知らないまま使い続けること」が危険です。
AIが私たちの生活を便利にしてくれる一方で、どれくらい水を奪っているのか。
その事実を知ることで、企業の取り組みや自治体の方針を見直す視点が生まれます。
AI時代は、新しい「水の奪い合い」の時代でもあります。
便利さだけを見るのではなく、水の循環とセットでAIを考えること。
それが、AIと人間と地球が共存するための、第一歩になるはずです。

