アナリティクスの応用:探索レポートを使ってデータの洞察を深めよう

Google アナリティクス(以下GA)は、ウェブサイトやアプリの利用状況を詳細に把握できる強力なツールです。その中でも「探索レポート(Explore)」は、より柔軟で深いデータ分析を可能にする機能として注目されています。
多くのユーザーがGAの標準レポートで満足しがちですが、実際には「標準レポートでは分からないこと」も数多くあります。たとえば、「コンバージョンに至るまでのユーザーの行動パターン」や、「ある属性のユーザーが特定のページで離脱している理由」など、より詳細で文脈に応じた分析を行うには、探索レポートが不可欠です。
探索レポートとは?
探索レポートとは、Google アナリティクス4(GA4)に搭載されている高度な分析機能です。ユーザーが自由に分析の軸(ディメンション)や測定指標を設定できるだけでなく、視覚的にわかりやすい形式でデータを可視化できます。
特に以下のような分析が可能になります:
- ユーザーの行動フロー(パス探索)
- コンバージョンファネルの分析
- セグメント別のパフォーマンス比較
- クロス集計による相関分析 など
なぜ探索レポートを使うべきか?
探索レポートを活用することで、以下のようなメリットが得られます。
- 課題の発見力が向上する:標準レポートでは見えない「なぜ?」に答えられる
- 仮説検証がしやすくなる:自分で自由に条件を組み合わせて検証ができる
- 施策の裏付けが取れる:データに基づいた意思決定が可能になる
つまり、探索レポートは「ただデータを見る」から「データを使って行動する」ための第一歩なのです。
1.探索レポートの基本構造と用語解説
探索レポートを使いこなすためには、まずその基本構造と用語を正しく理解することが重要です。ここでは、探索レポートを構成する主要な要素について解説します。
1. 探索レポートの構成
探索レポートは大きく以下の3つのパネルで構成されています:
- 変数パネル(Variables)
- タブ設定パネル(Tab Settings)
- 出力結果パネル(Output)
① 変数パネル(Variables)
ここでは、分析に使用するディメンション(分類軸)や指標(数値)を選びます。
たとえば:
- ディメンション:ページタイトル、参照元、デバイスカテゴリなど
- 指標:セッション数、エンゲージメント時間、コンバージョン数など
また、比較対象として使う「セグメント」もここで追加できます。
② タブ設定パネル(Tab Settings)
この部分で、どのディメンションや指標を、どのように組み合わせて表示するかを設定します。たとえば:
- 行:ページタイトル
- 列:デバイスカテゴリ
- 値:セッション数、コンバージョン数 など
分析目的に応じて、集計方法や並べ替え条件なども細かく調整可能です。
③ 出力結果パネル(Output)
ここが実際のレポート表示部分です。自由形式の表やグラフ、ファネルチャート、ツリーマップなど、設定に応じた形式でデータが可視化されます。
2. よく使うテンプレートの種類
探索レポートには、目的に応じた分析テンプレートがいくつか用意されています。代表的なものを紹介します。
自由形式(Free Form)
最もよく使われるテンプレート。ピボットテーブルのような形式で、自由に行・列・値を組み合わせてクロス集計ができます。
用途例:デバイス別のページ滞在時間比較、チャネルごとのコンバージョン率の分析
パス探索(Path Exploration)
ユーザーがどのような順序でページを移動したか(行動の流れ)を視覚的に表示できます。
用途例:トップページから商品ページ、カート、購入完了までの流れを分析
ファネル探索(Funnel Exploration)
特定の行動ステップを定義し、その通過率(コンバージョン率)を視覚化します。
用途例:フォーム送信までのステップ(表示→入力→送信)での離脱分析
セグメント重複(Segment Overlap)
複数のセグメントがどのように重なっているかをVenn図で表示します。
用途例:購入ユーザーとメール登録ユーザーの重複状況を把握
3. 基本用語の整理
用語 | 説明 |
---|---|
セグメント | 条件に一致するユーザー群(例:モバイルユーザー、直帰ユーザーなど) |
ディメンション | 分析の「切り口」や「分類項目」(例:国、デバイス、流入チャネルなど) |
指標 | 数値で表される測定項目(例:ユーザー数、CV率、滞在時間など) |
イベント | ユーザーのアクション(クリック、スクロール、ページビューなど) |
探索レポートの基本構造と分析を行ううえで必要な用語を解説しました。これを理解しておくことで、次章からの実践にスムーズに入っていけます。
2.実際に探索レポートを作成してみよう
ここからは、探索レポートを実際に作成する手順を、具体的な例を交えながら解説します。初めてでも迷わないよう、ステップごとに丁寧に進めていきましょう。
ステップ1:目的の明確化
まず最初に、「何を知りたいのか?」という分析の目的を明確にすることが大切です。
例:
自社ECサイトで「モバイルユーザーのコンバージョン率(CVR)が低い理由を知りたい」
このような目的があれば、それに合ったセグメントや指標を選ぶことができます。
ステップ2:探索レポートを開く
Google アナリティクス4の管理画面から、左側メニューの「探索」→「+ 新しい探索」をクリックします。
テンプレートを選ぶ画面が表示されるので、今回は「自由形式」を選びます。
※自由形式は、最も汎用性が高く、ほとんどの分析に対応できます。
ステップ3:変数を追加する
画面左の変数パネルで、以下のような設定を行います。
使用するセグメント
- すべてのユーザー(デフォルト)
- モバイルユーザー(条件付きで新しく作成)
セグメント作成例:
- デバイスカテゴリ = mobile
- 期間 = 過去30日間
使用するディメンション
- ページタイトル
- ランディングページ
- 参照元/メディア
- 地域(都道府県など)
使用する指標
- セッション数
- エンゲージメント時間
- コンバージョン数
- コンバージョン率(CVR)
それぞれ必要なディメンションや指標を「+」ボタンからインポートします。
ステップ4:タブ設定を行う
次に、中央のタブ設定パネルで実際の出力形式を設定します。
設定例:
- 行(Rows):ページタイトル
- 列(Columns):デバイスカテゴリ(mobile、desktop、tablet)
- 値(Values):セッション数、CV数、CVR
フィルター:地域 = 日本(必要に応じて)
ステップ5:レポート結果を確認する
右側に生成された表を見ると、モバイル・デスクトップ・タブレット別に、どのページがどれくらいコンバージョンに貢献しているかが一目瞭然になります。
たとえば、モバイルでは「商品詳細ページ」のCVRが極端に低いと分かった場合、「スマホ向けUIに問題があるかもしれない」といった仮説が立てられます。
ステップ6:レポートを保存・共有
作成したレポートは画面右上の「保存」ボタンで保存できます。
また、「共有」機能を使えば、チームメンバーとURLを共有して一緒に分析が可能です。
補足:分析のコツ
- 複数のセグメントを並べて比較すると違いが明確になる
- エンゲージメント指標(平均エンゲージメント時間など)を追加すると、行動の質も評価できる
- フィルターを使って特定ページや流入元に絞ると、より深い洞察が得られる
このように、探索レポートは一見難しそうに見えますが、目的を明確にし、ステップに従えば初心者でも扱える強力な分析ツールです。
3.探索レポートで得られる具体的な洞察
探索レポートの真価は、「表面的な数値」ではなく、「行動の背景」や「ユーザーの傾向」といった“洞察”を得られる点にあります。
この章では、実際に探索レポートを使って得られる具体的な洞察の例を3つ紹介します。
例1:訪問者のコンバージョンパスの可視化(パス探索)
シナリオ
コンバージョン(例:商品購入)に至ったユーザーが、どんなページをどの順番で閲覧していたのかを知りたい。
方法
- テンプレート:パス探索
- スタートポイント:「セッション開始」または「特定ページの閲覧」
- 分析対象:ページタイトルやスクリーン名
得られる洞察
- よくある行動パターンが明らかになる(例:「トップページ」→「カテゴリ一覧」→「商品詳細」→「購入」)
- 途中離脱の多いステップを発見できる(例:「カートページ」→「購入手続きページ」で大幅離脱)
応用ポイント:
離脱ポイントを見つけたら、そのページのUIや読み込み速度などを改善する施策に繋げられます。
例2:特定チャネルのパフォーマンス比較(自由形式)
シナリオ
「オーガニック検索」と「SNS流入」で、コンバージョン率やエンゲージメントにどんな違いがあるか知りたい。
方法
- テンプレート:自由形式
- セグメント:オーガニック流入、SNS流入(自作セグメント)
- 指標:セッション数、平均エンゲージメント時間、CVRなど
得られる洞察
- オーガニック流入の方がCVRは高いが、SNS流入の方が滞在時間が長い、などの違いが見える
- チャネルごとにユーザーの「質」が異なることが把握できる
応用ポイント:
流入元に応じてランディングページの内容を調整することで、CVR改善が期待できます。
例3:ユーザー属性別の行動傾向の把握(セグメント重複)
シナリオ
「初回訪問ユーザー」と「リピーター」で、コンテンツの消費行動にどんな違いがあるか知りたい。
方法
- テンプレート:セグメント重複+自由形式の組み合わせ
- セグメント:新規ユーザー、リピーター、CV達成ユーザー
- ディメンション:ページカテゴリ、地域
- 指標:PV、エンゲージメント時間、スクロール率など
得られる洞察
- リピーターは特定のカテゴリ記事をよく読む傾向にある
- 新規ユーザーは情報ページでの離脱が多い
応用ポイント:
新規ユーザー向けに「導入記事」や「FAQ」などを改善し、リピーターにはパーソナライズされたおすすめ表示を強化する、といった施策に繋がります。
洞察を得る上でのポイント
- 「比較」や「推移」を見ることでパターンを発見しやすくなる
- 数値だけでなく、「どのような背景があるか?」を想像することで行動仮説を立てやすくなる
- 表やグラフに惑わされず、「目的に対する答えが出ているか?」を意識することが重要
このように、探索レポートを活用すれば、単なる数値の羅列ではなく、ユーザーの動きや傾向を具体的に把握できるようになります。これは、サイト改善や施策立案において非常に価値のある情報です。
4.よくある使い方とビジネスへの応用事例
ここでは、探索レポートの活用方法を、具体的なビジネスシーンごとに紹介します。
業種や目的によって活用の仕方はさまざまですが、共通して言えるのは、「データに基づいた仮説検証と意思決定」ができることです。
1. Eコマースサイトでの応用
主な課題
- 商品詳細ページでの離脱が多い
- カート投入後のコンバージョン率が低い
- モバイルユーザーの直帰率が高い
探索レポート活用法
- ファネル探索を使って、購入ステップごとの離脱ポイントを可視化
- パス探索で、商品詳細ページ閲覧後にどこへ移動しているかを分析
- セグメント別比較で、モバイル・PCでのCVRや滞在時間の差を把握
得られる洞察と施策例
- 「商品画像の拡大がしにくいモバイルページで離脱が多い」→ UI改善
- 「レビューが多い商品ほどCVRが高い」→ レビュー機能の強化
- 「決済前ページで離脱が集中」→ 購入フロー簡略化
2. BtoBサイトでの応用
主な課題
- 資料請求までの導線が弱い
- CTA(問い合わせボタン)のクリック率が低い
- 再訪問ユーザーが増えない
探索レポート活用法
- ファネル探索で「トップページ → サービス紹介 → 資料請求」までの到達率を確認
- 自由形式で、ページごとのCTAクリック数や平均エンゲージメント時間を比較
- セグメント重複で「初回訪問者」と「リピーター」の行動の違いを分析
得られる洞察と施策例
- 「サービス紹介ページでの離脱が多い」→ 内容の再構成や動画導入
- 「CTAボタンが下にあり見落とされている」→ 配置や色を改善
- 「リピーターはブログ経由で訪問が多い」→ ブログの更新頻度を上げる
3. コンテンツマーケティングでの応用
主な課題
- ブログ記事が読まれてもCVにつながらない
- 滞在時間は長いが離脱率も高い
- どんなテーマが読まれているか分からない
探索レポート活用法
- 自由形式で記事カテゴリ別のCVRを比較
- パス探索で「記事閲覧後にどこへ遷移しているか」を可視化
- セグメント別分析で、「リファラー(流入元)」ごとの行動傾向を確認
得られる洞察と施策例
- 「読了後に直帰する記事が多い」→ 記事末に次の行動導線(関連記事、CTAなど)を設置
- 「SEO流入の記事はCVにつながりやすい」→ 重点テーマの再選定と強化
- 「SNS流入は滞在は短いが共有されやすい」→ SNS向けの簡潔なコンテンツ作成
応用のポイント
- 分析だけで終わらせず、「施策に落とす」ことがゴール
- 定期的なレポート更新でトレンド変化をキャッチ
- 社内の他部署(営業、マーケ、開発)と連携し、データに基づいた施策を共有する
探索レポートは、一度設定すれば繰り返し使える「仮説検証のプラットフォーム」としても非常に有効です。
実データに基づいた改善ができるようになることで、ビジネスの成果にも直結しやすくなります。
おわりに:探索レポートを継続的に活用するコツ
探索レポートは、Google アナリティクス4の中でもっとも柔軟で深い分析を可能にする強力な機能です。しかし、一度使って終わりではなく、「継続的に活用する姿勢」こそが最大の成果を生みます。
ここでは、探索レポートを定常的に活用し、業務に活かしていくためのコツを3つご紹介します。
1. 仮説→分析→施策→振り返りのサイクルを回す
データ分析の目的は、「データを見ること」ではなく「意思決定を助けること」です。
おすすめのサイクル:
- 仮説を立てる:「このページはモバイルでCVRが低いのでは?」
- 探索レポートで分析:セグメントを分けて数値比較
- 施策を実施:UI改善や導線の見直し
- 再分析で検証:改善後の数値を追跡し、施策の効果を測定
このサイクルを繰り返すことで、データドリブンな改善文化が社内に根付きます。
2. テンプレートとセグメントを資産として蓄積する
探索レポートでは、一度作ったテンプレートやセグメントを再利用できます。
例:
- コンバージョンファネル(初回訪問 → 商品詳細 → カート → 決済完了)
- モバイルユーザーセグメント
- 広告流入ユーザーセグメント
これらを保存しておくことで、毎回ゼロから作り直さずに、素早く分析→意思決定が可能になります。社内共有用の「分析テンプレート集」などを作るのも有効です。
3. 定期的にデータの変化を観察する習慣をつける
一度分析して終わりではなく、定期的(週次・月次)にレポートを見直すことが重要です。ユーザー行動や市場環境は日々変化するため、継続的な観察がなければチャンスもリスクも見逃します。
観察ポイントの例:
- 直近1ヶ月のコンバージョンファネルの変化
- 新しい流入チャネルの登場
- モバイルとPCの行動差の推移
「データを見てから考える」のではなく、「普段からデータに触れることで気づきを得る」ことが、デジタル施策の精度を高める鍵になります。
まとめ
探索レポートは、以下のような特長を活かして、より高度なWeb分析を可能にします。
- 標準レポートでは分からないユーザーの動きを把握できる
- セグメントやディメンションの組み合わせで柔軟な仮説検証ができる
- 実際の施策につなげられる洞察を得ることができる
これまで紹介した内容を活かして、ぜひ皆さんのビジネスに探索レポートを取り入れてみてください。“分析のための分析”ではなく、“行動につながる分析”を目指していきましょう。